健康運動指導士 大方 孝
『歩行速度や握力が低下した高齢者 認知症や脳卒中リスクが上昇』
高齢になり歩行速度や握力が低下すると認知症や脳卒中のリスクが上昇する―そんな研究成果がアメリカ神経学会の公式サイトに発表された。アメリカボストン医療センターのErica C Camargo氏らは、平均年齢62歳の男女2400人以上を対象に歩く速度、握力、認知能力テストを実施した。さらにMRI(磁気共鳴断層撮影)による脳の健康診断も行った。最長11年の調査機関中に34人が認知症を、70人が脳卒中をそれぞれ発症した。
歩行速度が遅い人や握力の弱い人は将来的な認知症や脳卒中リスクが高まる傾向がみられた。歩行速度の遅い人では早い人に比べ認知症の危険が1.5倍に上昇した。握力の強い人は脳卒中や一過性脳乏血発作(TIA)リスクが42%低下するという結果になった。
65歳未満ではこうした傾向は認められなかったという。「高齢者の身体能力の衰えと、認知症や脳卒中の増加が関連あることを示した研究だ。(中略)詳細は4月らニューオーリンズ出開催される第64回米国神経学会で発表される予定だ。
(特定健診・特定指導リソースガイド 最新ニュース2012.02.23より抜粋)
このことから、身体能力の衰えが脳疾患を招いている可能性が示唆されます。加齢に伴う身体能力の低下を少しでもくいとめることがこれらの疾患を予防することに繋がるかも知れません。そのためには、運動器の能力(歩行速度)を維持し、上肢の筋力(握力)を維持するためには、適度な運動を定期的に継続することが求められます。
⒈脳を活性化には朝の運動が良い:
身体の負担にならないように運動を行うには、何時からが適しているのでしょう?
運動を行うタイミングは、運動の目的や内容によっても異なるので一概に何時からと規定するのは困難です。例えば、身体を暖めたり、脳を活性化させるために、軽いウォーキングや水泳などを行うのであれば、朝が一番効果的です。但し、早朝の空腹状態で運動を行うのはリスクが高いといえます。必ず、朝食を摂り、少し休息してから運動を行うようにしましょう。
また、糖尿病などの予防・改善のために運動を行う場合は、食後1~2時間の間に有酸素運動を
行うのが効果的です。食事を摂ると徐々に血糖値が上昇し、1~2時間後にピークに達します。このタイミングにあわせて運動をすると、血中のブドウ糖が消費されて血糖値を下げる効果が見込めます。
さらに、筋力アップを目指すなら、夜トレーニングをすると良いといわれています。筋力をつける場合は、重い負荷での筋トレを行う必要があります。成長ホルモンは、睡眠時に多く分泌されるので、夜筋トレを行い、たんぱく質を補給してから、睡眠を十分にとれば、より強い筋肉を作ることが出来るという訳です。
しかし、運動を日常生活に習慣化して定着させる為には、一日の中で最もやりやすい時間帯に行うことが、運動継続のコツではないでしょうか。
2.空腹時・食事直後の運動は禁忌…
健康と体力アップには、適度な運動とバランスの良い食事を心がけることは言うまでもありません。しかし、運動と食事のタイミングによっては、身体に好ましくない影響を与える場合があります。①空腹時の運動は避けましょう。空腹時とは、「お腹がすいた」と感じている時だけでなく、空腹感の有無とは別に、起床から朝食までの間、昼食や夕食の直前や食後3時間以上経過し何とも食べていないような時などは運動を行うべきではありません。このような状態の時には、血糖値が低下していますので運動を行うと低血糖で体調を悪くする場合があります。
②食事直後の運動も避けましょう。人間の血液量は、体重の7~8%程度といわれています。その血液は、その時の需要に応じて必要量の血液を配分するように調整されています。運動中は、筋肉に多くの酸素やエネルギーを供給する必要がありますので、筋肉に多くの血液が流れるように心拍数を増大させて流量を増加させます。同時に体内各所への血液の配分もされ、消化器や腎臓などへの血液流量が減少します。食事をすると、消化吸収のために胃腸の血液需要も高まりますが、その状態で運動を行うと、筋肉の血液需要が高まり、消化器への血液需要が見合わなくなり消化不良を起こしてしまいます。
3.運動はマイペースでタイムリーに
運動を行う場合に、「いつ・どこで・どのぐらい」行えば良いのか、案外思案してしまうものです。
ましてや、仕事が忙しくて、なかなか運動に時間を割くことが難しいという方も大勢いらっしゃることでしょう。
しかし、体力アップや生活習慣病などの予防・改善が目的であれば、ある程度の頻度と時間の運動を継続する必要があります。出来れば、一日1時間は運動を行う時間を確保したいものです。
自分にノルマを課さずに、先ずは一日10分歩くことから始めては、どうでしょう?!
そして、一日の時間の使い方を工夫して徐々に時間や機会を増やしていけば良いのです。
例えば、バスなどに乗るところを一駅歩くとか、エレベターやエスカレーターを使わずに階段を昇るなど、工夫次第で運動を行うことが出来ます。
そうは言っても、(運動は)身体のために良いことは理解していても、自分一人ではなかなか運動を始められないし、まして運動を続けることなど至難の業。この様に運動を始める、続けることはハードルが高いと思っている方には、フィットネスクラブなどに入会して教室などを利用することがお奨め。仲間と共に汗を流して定期的に運動を継続できれば、十分な運動量を確保することが出来ますよ。
特に生活習慣病の予防改善に運動を行う場合は、週3日程度、180分の運動を行うのが良いとされています。週3日が難しい時は、1日30分-週6日に分けて行うことでも良いわけです。
また、朝昼晩に各10分運動を行えば、一日30分は確保することが出来ます。このように隙間時間を見つけて小まめに運動を行うのも一案ですね。
※ちょっと一息‥健康コラム→歳をとると筋肉痛は二日後にやってくる。
普段あまり運動をしないのに、子供運動会で走ったら、翌日から筋肉痛。家中の大掃除をしたら腕と肩が筋肉痛。誰でも一度は経験をしたことがあるのではないでしょうか?!
筋肉痛は、一般的には運動によって筋肉の組織が壊れて、そこに炎症が起きるのが原因と考えられています。筋肉は、細い筋繊維がたくさん束ねられたものです。筋肉にある程度以上の強い負荷がかかると、筋繊維があちこちで切れて壊れます。筋繊維が破壊された時に十分な栄養や酸素が供給されれば、筋肉は修復されます。そしてこの修復課程で、筋肉は前の状態よりも、強くなろうとします。
では、筋肉痛が起きるような運動でなければ効果はないのでしょうか?
例えば、30分程度のウォーキングや水中歩行、サイクリングなどでは、筋肉痛は起きません。
筋肉を太く、強くする効果は期待できないものの、運動を行った分だけエネルギーを消費し、呼吸・循環機能を維持し、ストレスを解消するといった効果は、十分に期待されます。
逆に、翌日や二日後にひどい筋肉痛が出るような運動は、負荷が強すぎたということです。健康の維持・増進には、水中歩行や水中体操、ウォーキングなどの有酸素運動やダンベル体操などの筋肉痛が起きない軽度な運動の方が適しています。
例えば、筋肉痛が起こった場合は、筋肉に軽い炎症が起きていますので、痛みがひどいうちは運動せずに休むようにしましょう。歩いたり、座ったりという動作が辛い筋肉痛のケアには、炎症を抑えたり冷却する効果のある薬剤を使用すると良いでしょう。しかし少々痛みはあるけれど日常生活に支障のない程度の筋肉痛であれば、そのまま何もしなくとも問題はありません。
また、筋肉痛は、運動によって筋繊維が破壊されて起こるものですから、運動後のストレッチやクーリングダウンでは、筋肉痛を防止することは出来ません。しかし、筋肉をリラックスさせ、血流を促進させる効果がありますので、壊れた筋繊維の修復を早めるためには必要なことです。
また、ぬるめのお風呂やジャグジーにゆっくり浸かる。擦るような軽いマッサージを行うことも同様な効果が期待できます。